東大ドリームネットの元代表であり、現在は東京都議会議員の鈴木邦和さん。
入ってすぐに大学に行くモチベーションを失い、その後の7年間(!?)の大学生活を経て、見えてきた「本当にやりたいこと」とは?
「将棋のプロ棋士」を目指した青年が「政治家」になるまでのキャリアに迫りました。
プロフィール:鈴木邦和(すずきくにかず). 1989年生 東京大学工学部卒. 在学中に東北の支援団体や政治メディア会社を起業. 2013年 東大総長大賞 団体受賞. 2016年 米フォーブス誌 30 under 30 in Asia. 2017年 東京都議会議員に選出. 2018年 世界経済フォーラム Global Shapers.
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−まず、簡単な自己紹介をお願いします。
鈴木邦和です。現在は都民ファーストの会に所属していて、127名からなる東京都議会の議員をやっています。
−議員さんなんですね。
はい、東京都のいろんな政策を考えて提案したり、決定したりするというのが主な仕事です。
−最初から政治家になるおつもりだったんですか?
いいえ、実は大学に入った時は将棋のプロ棋士になりたかったんです。
−将棋の棋士?
はい、高校時代ずっと将棋に打ち込んでいて、全国大会にも何度か出場していたんですけど、全国では中々勝てなくて・・・それで、東大の将棋部ってめちゃくちゃ強いんで、東大の将棋部に入りたかった。
−じゃあ、将棋一筋の大学生活だったんですか?
いや、それが大学に入った後に、僕は大した将棋の才能がなくて一年の春にやめちゃったんです。
−一年の春って、すごく急ですね…。どうしてやめちゃったんですか?
いちばん重要な才能は情熱なんですよね。将棋にどれだけ自分の人生をかけられるかが問題で…。大学の将棋部には、僕よりもずっと真剣に将棋と向き合っている人たちが沢山いました。それを見て僕には無理だなと。
そうすると大学に行く目的がなくなっちゃった。これ本当なんです。
将棋をやめてから大学があまり好きになれなくて、
結局7年いたのかな、留年と休学を繰り返してますけど笑
−7年…! なんで大学が好きじゃなかったんですか?
うーん…。その時の自分にとっては、大学で学びたいことが見つからなかったんです。
−学びたいことが見つからない?
話が前後するんですけど、僕、大学時代に一人で小さなメディアの会社を起業したんです。
起業してから改めて痛感したのは、社会で戦っていくために東大生の肩書き自体は、あまり価値がないのかもなーということです。
東大に入る学力があるということは少し意味があるかも知れないけど、実はその時点でもう終わっていて。東大生という肩書きで起業に成功するわけではないので、そういう意味で僕にはむしろ煩わしかった。
授業の内容になかなか興味が持てなかったし、将棋をやめてから本当に目標がなくなってしまいました。
−大学に行く意味が見出せなかったんですね…。
そうですね。でも、最終的には研究室の先生に救われました。科目の勉強はどうしても身が入らなかったけど、研究は、誰もやっていないことにチャレンジして、0.0001ミリでも人類の前進に貢献できたのが嬉しかった。
研究室では、先生・先輩たちと多くの議論を交わして、仮設と検証を繰り返して結果を求めていく方法とか、学ぶものがたくさんありました。僕が大学を卒業できたのは、ひとえに研究室の先生が最後まで諦めずに指導してくださったおかげなんです。先生がいなかったら間違いなく中退していました。
でも、研究室に入る前の僕にとっては、大学の勉強は順番が逆なんじゃないかと思っていて、「科目の勉強なんて最初にやっても興味持てないな・・・」と思っていました。
−将棋のプロになる道を諦め、大学に行くモチベーションを失った鈴木さんにとってターニングポイントはどこだったんですか?
いろんな切っ掛けはありましたが、やっぱり「交流会」は大きかったです。
−ドリームネットの交流会。具体的にどのようなところがターニングポイントになったんですか?
交流会に参加して面白かったのは、多様な生き方をしている卒業生がいることでした。
なかなか接点ないですよね、普通の大学生活を送っているだけじゃ。それこそ起業している人って僕はほとんど会ったことがなかったし、起業っていう選択肢がそもそも自分の中になかった。
一度自分の目標としていたものを失って挫折して。でもその後に、交流会でものすごい沢山の選択肢を見せられて、しかもみんな魅力的だった。
それは自分にとって大きな転換点になりました。さっきの研究室の先生もそうですが、僕は卒業生たちにも本当に救われたんです。将棋で挫折して腐っていた自分に、新しい生き方を見せてくれた。
−120人以上もの多様な分野の第一線で活躍する社会人と、損得抜きに、気軽に、しかも本気で将来について議論できるのは交流会の魅力ですよね。
うん、交流会で卒業生たちと出会ってなければ、僕はたぶん起業もしていないし、政治家にもなっていない。東北の復興支援も続けられなかったと思います。その過程で、一生付き合える本当にいい仲間にも恵まれました。
−先ほどからお話に出てる起業についてお伺いしたいのですが、どのような経緯があったんですか?
僕はもともと政治に興味はなかったんですけど、東北の震災があった時に、現地にずっとボランティアに行っていました。
それで、その時に初めていろんな政治の問題に当たったんですね。災害支援のボランティアを続ける中で、政治がもっとうまく機能すれば現場の人は救われるという場面をたくさん目にしました。
−どのようなエピソードがあったのでしょうか?
例えば、震災から1年後に仙台に行った時、駅前にパチンコ屋がめちゃくちゃ立っていました。あの時期は東北各地から仙台に移って来た被災者の方々がたくさんいたんです。それで、国から補償金は出ているんだけど、仕事はないんで、昼間っからパチンコにそのお金を費やしちゃう。これは別に被災者の方々が悪い訳じゃなくて、もっと社会の構造的な問題なんだと思います。
それでも、当時の自分にとってはショックでした。自分は東京から来て、仙台を通り越して石巻でボランティアをやっているのに「なんでだ…」みたいな笑。「どうしてこういうことが起こってしまうんだろう」っていうのを考えさせられて、それで政治に興味を持ったわけです。22歳の時かな。
−政治が良いと思って打った政策が現場では機能していなかった、ということですね。その問題意識からどのように進路が変わったのでしょうか?
当時は、企業に就職することも真剣に考えました。でも、せっかく芽生えた思いがあるなら、政治の分野でできる仕事をしたいなって思って、政治のメディア会社を起業しました。
−政治のメディア?
投票マッチングっていうシステムを中核にしたメディアです。
日本の選挙って、ポスターが街中に貼られて、選挙カーで名前を候補者がよく連呼していたりするじゃないですか。正直うるさいですよね。僕も今回やったんですけど笑
ただそれだけじゃやっぱり伝わってこないないわけです。特に政策がわからない。それで、各政党のマニフェストを読んでみるんだけど、有権者からするとなかなか難しくて比べられないんですよ。誰よりも僕自身がそうだった。
だから各政党のマニフェストをもとに選挙の争点を20個設定して、それらの争点に関する20の質問を公開しました。ユーザーがその20問について賛否を答えていくと、その人に政策的に一番近い政党を紹介するっていうサービスです。
その時は衆院選で50万人くらいの人が使ってくれました。
−50万人!かなり反響があったんですね。
その後の僕の問題意識としては、投票って年に一回名前書いて終わりだなと。そうじゃなくてもっとリアルタイムで有権者が政治に声を反映させる仕組みを作りたいなと。
例えば、パリだと市民が毎年行政に事業を提案して、市民の投票によって行政の事業を決めるっていう仕組みがあります。この仕組を市の予算の1-5%の範囲でやっているんです。ものすごく画期的ですよね。
−ITによって市民の意見が直接行政の事業に反映されるって、とても面白い取り組みですね。
こういう海外のオープンガバメントの事例を日本で持ってこようと思って、起業してから議員や役所の方々に提案してきたんですが、やっぱり日本では前例がないってことで最後は断られてしまいました。だったら自分で前例を作ろうと思って。
2016年に小池都知事が就任してから「情報公開」を第一に掲げていました。。東京というITの普及率が高い場所で、知事がそういう旗を振っているのであれば、僕の問題意識も形にできるかなと思って、いろいろ悩んだ末に立候補することを決めました。
−自分で事例を作ろうという感じで議員になって、で、実際に前例を作っちゃったという訳ですか?
東京には1370万の人がいますよね。でも、議員は127人しかいない。その中で議員が都民全員の声を聞けるかっていうと、当然聞けない。物理的に不可能です。
でも、いまの時代はITを使えば、直接会えなくても、もっと丁寧に都民のニーズを拾って、それを政策に反映することが出来るんじゃないかって。
そして、今年、パリ市の事例をなんと小池知事が東京都で採用したんです。東京都でも年間10億円近い枠の中で、都民が提案する事業を受け付けています。それを公開して都民の投票で決めてもらうと。ちょうど今日(取材日:2017年12月22日)が投票最終日なんです。
-そうなんですか!全然知らなかった!
行政の事業はPRが結構難しいので、今後の課題ですね笑。
だから、僕としてはこういう新しい行政のあり方、政治のあり方の先進事例を作って、多くの人に広めていきたいなと思います。
テクノロジーで政治を変えたい。できれば東京から新しい政治のモデルを出していっていろんな自治体に普及させていきたい。そういう想いで仕事に取り組んでいます。
最近だとモスクワが凄いんです。モスクワ市の市長は毎週市民にアプリで政策の質問をしています。例えば「新たに公園をつくるんだけど、どんな施設や遊具がほしいか」みたいな質問。それに市民が4択で答えて、その結果を基に市長が政策決定して実現するんです。いまモスクワ市民の20%がアクティブユーザーだそうです。4年に1回、人の名前書いて終わりの選挙より、よほど民意を丁寧に反映しています。かつて世界一の社会主義国の首都だった街が、東京の遥かに先を走っている。
世界を見ていても、僕はやっぱりこれから21世紀の民主主義をリードするのは都市だと思っているので、そういう意味でも東京都の議員としてできることはあるなと。
−都市からテクノロジーで政治を変えていく、お仕事の裏にあるアツい想いがひしひしと伝わってきました。
−この記事を読んでいる学生の中でも、鈴木さんがそうだったように、進路に悩んでいる東大生がたくさんいると思います。学生に向けて何かメッセージはありますか。
シンプルだけど、自分で仕事を選ぶということをした方がいいと思います。
−「自分で仕事を選ぶ」?一見みんな自分で仕事を選んでるように思えるのですが…。
自分もそうだったのですが、実は東大生であるがゆえに、むしろ視野を狭めてしまうことがあって。
東大だからこそ選びやすいキャリアもあるんだけど、実は思考停止して選んでいる可能性もあるんです。例えば、東大の法学部に入ったら弁護士や官僚になる人がやたら多いですよね。それ自体は全く悪いことではないのですが、キャリアを選ぶ上で「東大法学部卒」という要素に囚われすぎて、それ以外の自分の要素から目を背けてしまっているケースがあります。
自分の純粋にやりたいこととか、それをやることが社会に何をもたらすのかとか、そういう事をもっと真剣に考えた方が、最終的にずっといい選択ができる可能性もあるのかなと。
−なるほど、この仕事に就きたい!で終わるのではなく、その仕事の先に自分は何をしたいのかというのを、ずっと考え続けるというのが大事なんですね。
そうですね。でも考えるだけではだめです。
例えば「人の役にたつ仕事をしたい」ということを学生時代はみんなよく言います。僕もそうでした。でも、役に立つ仕事をただ考えるだけっていうのと、実際現場に出て何か問題に取り組みながら、答えを探していくのとは全然違うんだと思います。
東北で瓦礫撤去をずっと続けるのってしんどいですよ。人の役に立つ仕事ってそんなに単純な構造で出来ていない。格好いい言葉を身に纏うのは簡単だけど、実際に行動しないとエッセンスは見えてこないのかなーと。
−「考えるだけではだめ」。実際に学生時代にボランティア、起業という経験をされてきた鈴木さんだからこそ、言葉に重みがあります…。
うん、とにかく自分のキャリアの中で「何をしたいか」を常に考えて、実際に行動して突き詰めていくことはすごく大切ですね。
僕の場合だと、やっぱり自分にしかできない仕事をやりたかったんですよね。
でもその「自分じゃないとやれないこと」が、最初から見つかる可能性は限りなく小さい。というか、そもそも自分がそんなに特別な才能を持っている訳ではないから。いろんなことをやって、いろんなとこに行って、たまたま他の人とは違う体験をしてみてようやくほんの少しだけそのヒントが得られるんだと思っています。
ここで偉そうなことを言っていても、僕はいまも全然出来ていないんです。いまでも自分にしか出来ない社会への貢献の方法をずっと模索しています。たぶん一生続くものだし、もしかしたら人生の最後まで見つからないかも知れない。それでも、この生き方のほうが僕にはいい。だから、その最初のきっかけをくれたドリームネットの仲間や卒業生の方々には、本当に心から感謝しているんです。
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思考停止にならないよう、視野を広げ、行動し、軌道修正を重ねていく。その先に初めて見えてくる「やりたいこと」。
将来「やりたいことは何だろう」と考えるだけで、実はそこで思考停止していた筆者の心には、行動や経験に裏打ちされた、鈴木さんの想いが乗った言葉がとても印象に残りました。
今回、鈴木さんがインタビュー中に触れてくださった東大ドリームネットの「交流会」が6/16(土)に本郷キャンパスの御殿下ジムナジアムで開催されます!
進路に迷っている方、鈴木さんのように志を持って社会で活躍されている卒業生の話を聞きたい!という方、ぜひお越しください。
□企画概要
【日時】2018年6月16日(土)13時~18時
【場所】東京大学本郷キャンパス御殿下ジムナジアム
参加者:卒業生100名、学生300名程度を予定。
※参加無料・服装自由・途中入退場自由