中曽根元首相は日本が対峙すべき問題を国際関係・国内関係の2つに分けて概説されました。
その中で2008年は「乱」の年であり、米国に端を発するサブプライムローン問題が一つの転機となって、世界は米国の一極権力構造から多極構造へと変遷していくとの分析をされました。資本主義には欲望の過剰・資本の濫用というものが内在し、それらが秩序を乱していき、富に対する倫理性といったものがこれらを抑制するための必需品となると説かれ、それゆえにライブドア事件への対応をかんがみればわかるように、日本人は資本やお金の使い方に限度と規律の必要性を感じ始めました。お金というものは必ずしも万能ではない。こうして富と倫理の結びつきの連関性への関心が高まり、この連関の目処・規律・準則・筋道をわれわれが求めるようになり、それに対し財界人らがしっかりその道の必要性を示すことが今回の問題の教訓である、と述べられています。
また、サブプライムローン問題についての影響にも考察を加えられています。米国の支配力は低下し、G7の台頭は顕著になり、世界の結びつきはますます必要になるということです。こうした中でインドや中国、ブラジルなどの国家を含むG20との協調した国際問題への対処に重心は移り、その中でも日本はそうした趨勢を機に、国際機関などで指導力を発していくべきである、と力説されました。
国内関係については、ねじれ現象の生じている国会について取り上げられました。中曽根元首相がおっしゃるには、次の総選挙を機に日本は激動の時代を迎える、ということです。与党・野党関係にも影響を及ぼしうる総選挙についての見解は、元首相ゆえになしうる精緻な分析でした。そして、最後には時代の流れのはやさについて触れられ、政治家に求められる資質、ご自身の経験を踏まえた内閣総理大臣の求められる能力について説かれて講演は終了し、拍手喝采の中、中曽根元首相はご退席されました。