2007年に株式会社ロジトーイを設立し、ビジネスファシリテーターとして中小企業等の潜在力を掘り起こすほか、地域活性化・地域振興関連事業を手掛けるなど幅広く活動されている野間さん。今回は地方の実態やその課題について、野間さんご自身の経験をもとにお話をしていただきました。
〜今回インタビューにご協力いただいた卒業生〜
野間英樹(のま ひでき)さん
ご経歴:
1997年 学部3年の頃にIT関連会社を設立
2000年 東京大学農学部卒
2007年 株式会社ロジトーイ設立。技術開発や中小企業の事業化支援に取り組むと同時に、社会人と大学生の交流活性化を図る朝活「三文会」 を立ち上げに関与。
2015-2016年 天草市起業創業・中小企業支援センター「Ama-biZ」にて勤務
2016年- 天草IoTイニシアティブなど天草内のプロジェクトチームの立ち上げ支援
〜インタビュー本編〜
ー大学卒業後、新規起業や中小企業を支援するコンサルとして活躍していらっしゃいますが、同時に地域活性化にも取り組んでおられますね。野間さんは東京ご出身ですが、活動の中で都市と地方の違いを感じられることはありますか?
ありますね。まず、地方と都市部だと圧倒的な価値観の違いがあります。地方は学歴社会ではないので、公的機関にしても大卒の割合は半分程度で、民間では更に低くなる。これで社会は回っているんですが、大学で学ぶ方法論が身についていないと困ることがあります。例えば会議をするときなどに論理・推論の方法を知らないことによって難航してしまうんです。民間での利害対立の調整に関しても、話し合いではなくパワーバランスが中心になってしまうことが少なくありません。
中高生も、都市部の子供に比べると自主性や社会との付き合い方などが不十分な傾向があります。ただこれは彼らが悪い訳ではなく、学校教育の性質や大人による子供扱いも一因ですね。他人と接する機会が少ないので、人慣れしてないというのもあります。
ーなるほど..偏見かもしれませんが、確かに積極的・有能な人材は大学進学などで都市部に流出してしまうイメージがあります。
そうですね、特に地方ではそうせずに残った人々にやる気が欠けている場合が多いです。もちろんやる気のある人がいない訳ではありません。都市部から戻った人や地元に残った人の中にはエネルギーに満ちた方もいます。
地方であっても、魅力があれば人材は戻ってきます。ただ、雇用に関して地方は労働集約型・低賃金であるため、若者は相当な理由や熱意がないと寄り付かないんです。
私は商店街を支援するプロジェクトに関わったこともありますが、そもそも産業が活気づいていなければ意味がないと感じました。地方にしかできないこともあるため、素材が生かされる方法を考えることが重要です。私は、特に一次産業が潜在性を秘めていると思います。
ーいわゆる農林水産業ですね。現在は農業方面でもITを活用しようという流れもありますが、野間さんはどういった形で一次産業の可能性を引き出すことができるとお考えですか?
私自身、実は農水産業に関してはITをあまり活用していません。農業では、農業技術そのものに改善の余地があるためです。新しい技術の導入を検討する段階で、今まで行なっていたことの妥当性を見直すことが重要です。
水産業については、予算的にIT技術の実装が厳しいという事情もありますが、IoTに関心のある方に対してはアドバイスをする等の活動を行なっています。それから、水産業に対する子供向け教材も開発していますよ。遊漁船の規制などもありリアルな体験は難しいですが、ICT教育という形では十分可能です。地元の子供たちに対して提供することはもちろん、観光資源として活用することも考えています。
戦前は、一次産業に関連する技術を日常生活の中で学ぶことが想定されていました。だから学校ではこれ以外の知識を学んでいたのですが、現在はこういった技術を学校でも地域社会でも学ぶことはできません。収入に直結する生活技術を若い世代に伝える必要があるんです。特に食は何年経っても残り続ける産業なので、きちんとやれば収入につながります。
農家は儲からない?そんなことありませんよ。例えば、ポンカン農家では豊作の翌年はあまり実らなくなってしまうのが常識でしたが、技術を見直したら前年の取れ高に関わらず安定的な収穫量を確保することができたという実例があります。
あとは日本の農家は経営規模がそもそも小さいので、売り上げに繋がらないという問題もありますね。いずれにせよ、ビジネスとして回していこうと思えば本気で現状を見直す必要があると思います。
ー恥ずかしながら、一次産業は他の産業と比較して収益が上がりづらいものだと思い込んでいました…確かに、「何を作るか」よりも「どう作るか」に着目するべきですね。
ITも活用しつつ農業のあり方を見直すという観点は学生の頃からお持ちだったのですか?
確かに学部3年のときにIT関連の起業に関わっていましたが、農学部を選んだのはITのみだとつまらないと思ったからなんです(笑)。農業経済なども学んでいたものの、当初からビジネス志向を持っていた訳ではありません。あるとき小口社債を農家に適用する人に会い、農業への技術投資を行いたいと思いたちました。その後、農業支援の学生団体をバックアップしたことを契機に、徐々に農業者コミュニティにも参加していくようになりました。
私は色々な活動を行っていますが、ITの仕事は多様な業種と関連があり、誰とでも付き合えるというのが活動に有利に働くことも多いですね。農学部時代に化学も物理学もなんでもやるという感じで基礎実験を行っていたので、物事の原理はわかるという点で比較的多くの人と話ができるというのもあると思います。
今は専ら天草関連の仕事が大半ですが、スタートアップ企業の支援等も行なっているほか、IoTのセンサー作成などにもエンジニアとして関わっています。今後も農業に限らずこういった幅広い活動をつづけていくつもりです。
ーなるほど、学部時代に学んだことが実は現在のお仕事に繋がっているということですね。では最後に、学生へのメッセージをよろしくお願いします。
学内外関わらず、何かに打ち込むことが大事です。無理して必修の授業を受けるよりも、自分の興味関心に沿った活動に打ち込む方がよっぽど面白い。
それから、人間的な欲求に対して素直になること。東大生って自分の感情や欲求を我慢することは得意なんだけど、常に自分の感情を抑制していると他人がどう感じているのかがわかりづらくなる。ひいてはビジネスをはじめ大きな目標を達成しづらくなってしまうんです。
また、決断する力をつけておくと良いと思います。東大に来るという選択肢にしても「周りがそうだから」という理由で選ぶ学生も少なくないですし、入学すれば進学選択まで決断をしなくても良い訳です。進振りやキャリア等についても、大体枠が決まっていたり、周囲に合わせれば上手くいったりするケースがある。東大にいると、何かを本当に悩み抜いて決定しなくても事が進んでいくシチュエーションが多いんです。だから今のうちから「決断=別の選択肢を捨てることに対する責任を負う」という経験をしておくと、後々大きな選択を上手くできるようになるはずです。まずは自販機の前で飲み物を選ぶ、レベルの決断で良いので(笑)。日々主体的に決断をするという経験を積み重ねていきましょう。
ーありがとうございます。都市部、ないし東大内にいるとどうしても同質的な環境に慣れてしまいがちですが、今のうちに多様な価値観に触れておくと良いのかもしれませんね。同時に、日々の決断や自分の感情も大事にしていきたいと思います。(終)
今回インタビューにご協力いただいた野間さんは、第30回交流会にご参加いただきました。今後の交流会にもお呼びする予定でおりますので、もっと詳しくお話を伺ってみたいという方は、ぜひ参加をご検討ください。
交流会についての詳細はこちらのページにございます。