2010年にご自身の会計事務所を設立され、会計士・税理士どちらの資格もお持ちだという鴛海さん。「異色な」キャリア選択の裏にある思いを伺いました。
〜今回インタビューにご協力いただいた卒業生〜
鴛海 量明(おしうみ かずあき)さん
ご経歴:
1990.3 東京大学経済学部経営学科卒業
1990.4 監査法人朝日新和会計社(現:あずさ監査法人)入所
1993.3 公認会計士登録
1993.7-1996.8 公認会計士・税理士山田淳一郎事務所(現:税理士法人山田&パートナーズ)
1996.9-1999.12 鴛海量良公認会計士事務所
1996.12 税理士登録
2000.1 独立し個人開業
2000.11-2006.3 優成監査法人代表社員
2005.10-2006.3 財務省理財局財政投融資ガバナンス研究会委員
2010.1 税理士法人おしうみ総合会計事務所を設立、代表社員に就任
2012.1 公益財団法人東京交響楽団評議員に就任
2015.6 公益財団法人日本ペア碁協会監事に就任
2018.7-2020.7 太陽有限責任監査法人パートナー
おしうみ総合会計事務所:https://www.oshiumi-tax.jp/
〜インタビュー本編〜
ー学生時代はどのように過ごされていたのですか?
全く勉強していなかったですね。3・4年生の時は授業には全く出席していませんでした。「理Ⅰ文Ⅲねこ文Ⅱ」って言って、昔は、文Ⅱ生は勉強しないことで有名でした。課外活動では、ヨットをかじったり、ラグビーサークルに所属していました。特にラグビーサークルでの人脈は今でも生きていますね。ただ、女子がいないのが嫌で、仲間と一緒に、他大女子とグルメサークルを立ち上げて交流していたりもしました。
ー中高時代からスポーツに親しんでいたのですか?
いえ、中高時代はにブラスバンドをやっていたのですが、飽きてしまって(笑)。
ただ、今でもクラシックは大好きで、年に180回はコンサートに通っています。今の事務所の場所の決め手も、近くにサントリーホールがあったからです(笑)。最近はコロナの影響でコンサートに行けていないですが、昔やっていたピアノを再開しました。
ー学生の頃は、将来のことをどのようにイメージしていましたか?
なんとなく、このままいったら都市銀に入るのかなと感じていました。クラスの8割は銀行に進むような、銀行全盛期でした。
でもそれはいやだ、と感じていたので、入学前から意識していた公認会計士の試験を受けることにしました。父親が、試験に受かって公認会計士になってから、急に羽振りがよくなったことが印象に残っていたので、「悪い仕事ではないんだな」と感じていました。
図書館を使うためにわざと留年して公認会計士の勉強に励みました。二回落ちたら就職しようと思っていたのですが、運よく合格することができました。
ー経済学部に進まれたのはなぜですか?
当初は法学部への進学を考えていたのですが、共通1次試験の点数が足りなくて、文Ⅰではダメだと思い、文Ⅱに変更しました。そのまま流れで経済に進んだという感じです。経営学科を選んだのは、やはり父親の影響で公認会計士という選択肢が頭にあったからですね。
ー公認会計士になられた後、独立されるまでの経緯を教えてください。
公認会計士になってからは大手監査法人で3年ほど監査に関わったのですが、どうも面白くなくて、比較的大きな会計事務所に転職して会計・税務のコンサルティングのようなことをやったあと、後を継ぐつもりで父親の会計事務所に入りました。しかし、自分自身、上に人間がいるのが嫌だったこともあり、父親とそりが合わず独立することにして、税理士登録をして今の事務所を立ち上げました。公認会計士の資格があれば、追加で試験を受けることなく税理士資格を取れるのです。
公認会計士の専売特許とも言える監査という仕事は、主として大企業を相手に決算が適正であるかどうかについて意見を述べることです。時には会計処理をめぐって喧嘩もしますし、敵対的な立場になる場合もあります。投資家を保護するためには重要な役割なので必要悪だと思っていますが。
しかし、一方で税理士の仕事は、クライアントである中小企業の、税務に関する相談に乗ったり、税務に関係のないことも含めてアドバイスをするので、会社の社長と同じ立場で仕事ができます。会社の人たちと同じ気持ちで仕事ができる点に、とてもやりがいを感じています。
ー東大生で税理士という進路を選択する人は少ないとおっしゃっていましたね。
そうですね、公認会計士になった人は、大手の監査法人に入るケースが多いと思います。それにこんな自由にやってる奴はいないですよ。東大生だとやはり大手監査法人で公認会計士として出世して稼ぐ人が多いですね、私はあんまりプライドが高くないのでそこへのこだわりはありませんけど。
ー会計士や税理士は、”AIに仕事を奪われる”という研究結果が出たことがありましたが、実際に導入してみて、どのように変わりましたか?
コストは半分以下ぐらいに削減できました。
ただ、税法や会計はとっても精緻なので、AIが人知を超えることはないと思っています。少なくとも僕が生きている間は。
ー採用の際にはコミュニケーション能力を重視されるそうですが、具体的にはどのようなことが大事だと思いますか?
先回りして読む力でしょうか。気配りができるかどうか、だと思います。あとは営業だと特に、ただマニュアル通り話せる能力だけでなく、こちらから働きかけられる、提案できる力が大事ですね。
ただ面白いのは、「こんな人が本当に営業なのかな」って思うような、声が小さかったり聞き取りにくかったり気弱に見える人が意外と売り上げ良かったりするんですよ。多分、安心感でしょうね。この人は嘘つかないなって感じさせる力があるんだと思います。
ー周りの「東大生らしい」キャリアから離れた鴛海さんが考える、東大の良いところはどこだと思いますか?
周りの人間がすごいところですね。自分がいかに小さいかわかるので。ここで得た人脈や繋がりは本当に宝だと思っています。今も同級生から仕事をもらうことがありますし、東大という肩書きがあることで信頼につながるなど、有利になる場面もあります。あとは、思考回路が近いので仕事がやりやすいですね。
ー大学生時代にやっておけばよかった、と感じることはありますか?学生に向けてメッセージをぜひお願いします。
他大の人との交流ですね。
あとは、長期を利用した旅行ですかね。今も旅行は結構行ってるんですが(笑)。
そして何より、勉強しなかったことを後悔していますね。別に、今の仕事に役に立つから、とかではなく。東大ってすごく恵まれた場所だったんだな、というのを卒業してから感じました。音楽学や経済、法学で有名な先生方がたくさんいらっしゃる。授業受けたかった、受けてておけばよかったと思う教授がたくさんいました。在学中にもっと勉強していれば、と思います。
ー鴛海さんありがとうございました。
お話を聞いていて、東大生がこだわりがちな「プライド」との付き合い方や、肩の力の抜き方が上手な方だなということを感じました。
皆さんもぜひ、在学中の今のうちに、東大の贅沢な環境を満喫してみてください!(終)